2017年1月23日月曜日

アーカイブの資料追加(Blanke & Metzinger, 2010)

研究アーカイブに資料を追加しました。今回は以下の論文。

Blanke, O., and Metzinger, T. (2010). Full-body illusions and minimal phenomenal selfhood. In T. Fuchs, H. C. Sattel, P. Henningsen (Eds.), The embodied self: Dimensions, coherence and disorders (pp. 21-35). Stuttgart, Germany: Schattauer.

いわゆるミニマル・セルフ(最小限の自己)を扱った論文ですが、著者らはこれを「Minimal Phenomenal Selfhood(MPS)」と概念化して、(a)全身への同一化、(b)自己の位置、(c)弱い一人称視点、という3つの特徴から定義しています。

そのうえで、体外離脱体験のような神経病理や、実験的に誘発されるフルボディ錯覚において、MPSがどう変容するのかを論じています。

理論的に興味深いのは最後の部分でしょう。ギャラガーのミニマル・セルフの議論では「所有感」と「主体感」が構成要素として必ずあげられますが、本稿の著者ブランケらは「所有感」だけが自己の必要条件であって「主体感」は不要(正確には、自己の必要条件ではなく十分条件)だと言っています。

本当にそう言えるんでしょうか。直接経験から出発する限り、これは怪しい議論に見えます。一方、ラバーハンド錯覚のような実験状況から出発して考えると、そういう考え方もありかもしれません。また、直接経験といっても、自発的な行為ではなくて反射運動のようなケースを中心に考えると、所有感はあっても主体感は不要だと言える面はありますね。
 
それにしても今日のハイデルベルクは寒い。もう昼なのに外気はマイナス6度。霧が立ち込めています。